【コラム】世界で2番目に小さな国ツバルで経験した何もない豊かさとは?


今回はツバルを訪れたときの話を書こうと思います。なぜ、今この記事を載せているかというと、豊かさとは何か、幸せとは何かを今一度考えてみたいと思ったからです。
今、ロシアによるウクライナへの侵攻が世界を揺るがしており、大変危険な状況です。アメリカ、ヨーロッパ、ロシアそれぞれに思惑があり、非常に複雑ですが、今私たちは歴史の転換点にいることは間違いなさそうです。
落ち着いたら、ウクライナのことも書いてみようと思いますが、今回はツバルについて書きます。

ツバルの訪問

ツバルは地球温暖化により最初に沈むと言われている国です。
僕は2回訪れており、1回目は個人で生きました。2000年の年末年始です。
2回目はツバルオーバービューというNPOのエコツアーに参加して訪れました。2005年の5月です。
いずれもかなり前であり、今では事情も多少変わってきているのではないかと思います。しかし、当時訪れた記録は珍しいと思いますので、それはそれで記録を残すのも悪くはないでしょう。
個人的には1回目に訪れたときの方が印象に残っており、そちらをメインに書いていこうと思います。いずれにしろ、シンプルライフを目指そうとされる場合、ツバルはもしお金と時間が許せば一度は訪れてほしい場所です。僕自身、人生観が変わりました!
私たちの暮らしの見直しや何が幸福なのかなど考えさせられることが数多くありました。
僕のシンプルライフの基盤を作っている場所と言っても良いでしょう。

持続可能な暮らしを求めて

環境保全に興味を持ち、このままでは美しい地球を未来に残すことがままならない。私たちはどんな世界を目指すべきなのか。

そんな気持ちから、会社の休みを利用して、ネパールやモンゴル、ツバル、デンマークなど、環境問題の現場を訪れ、持続可能な暮らしをしている人の価値観などを学んでいきました。

ブータンやアボリジニ、ネイティブアメリカンの生き方や思想に興味を持ったのもこの時期でした。

ツバルを訪れようと決意

ツバルとはどんな国か

パパラギという本があります。パパラギは2m近いトンガの酋長が彼らの仲間に向けて白人社会に染まることを警告した本で、本当にお勧めの本です。

おそらくその酋長はメラネシア系の種族だと思います。
フィージーはメラネシア系の代表でアフロの髪で背丈も180から190センチあるような屈強な民族です。
女性でも髭が生えている人たちもおり、ラグビーが強いのもメラネシア系の人たちです。

一方、グアムやサイパン、パラオ、ポナペといった日本と地理的に近い国々はミクロネシア系の人たちです。
ツバルはポリネシア系です。体格もメラネシアほど屈強ではなく、日本人に近いと思います。

実際にはいろいろな民族が混じっていることも多いです。

ツバルはサンゴ礁でできた複数の小島から成り立っている、国土面積が世界で2番目に小さな国です。1番小さな国はバチカンです。環礁の上に住んでおり、主に漁や野菜を採って自給自足を中心として生きていると書かれていました(2000年当時)。

2000年:大晦日の年越しダンス(当時、ツバルでお正月を迎えた日本人は私だけでした)

ツバルは2つの点で有名です。

ひとつは、ネットのドメインが『.tv』であること、テレビ会社にはうってつけのドメインで、『.tv』のドメインは高額で取引され、国の主要な収入源のひとつとなっています。

もうひとつ有名な点は、地球温暖化による海面上昇の影響で、世界で最初に沈むと言われている国であることです。
標高は最も高いところでも5mありません。

 

ツバルの人たちは先進国の排出する二酸化炭素の影響で祖国を余儀なく離れる危機に瀕していると言われているのです。

 

ツバルを訪れる

約20年前、ツバルの実情を知りたくて訪れることにしました。

当時はネットも今ほど充実していなかった時代ですし、今ほどツバルが有名ではなく、旅行会社さえツバルという国を知らない状況でした。
格安チケットを買おうと問い合わせても、ツバルってどこですか?と逆に旅行会社から尋ねられる始末です。

どうやって行くかというところから、手探りの状態で、海外のサイトをグーグル翻訳などを駆使しながら、行き方を調べていきました。
そういえば、20年前のグーグル翻訳はたどたどしい日本語だったんですよ(笑)。

サイトを調べてみると、ツバルはハワイとオーストラリアを直線で結んだ真ん中辺りにあり、フィージー経由で約30人乗りの小さな飛行機が週2便飛んでいることがわかりました。

まずは成田空港からフィージーのナンディ空港へ行き、そこからタクシーを半日ほど飛ばしてナリスリ空港へ、ナリスリ空港からツバルまでは約2時間。1週間の日程でツバルに滞在できるのは4日間ということがわかりました。

こうして、まずはフライトチケットを予約しました。

次にツバルに滞在する方法です。これもサイトで調べてみると、有料で部屋を貸してくれる人がいることがわかりました。
当時はメールなどもつながらなかったので、FAXなどを使って予約しました。そう考えると20年の進歩はすごいですね!

なんだかんだとわからないなりに、一歩ずつ進めていき、とうとう飛行機も住む場所も確保できましたので、年末年始にツバルに行くことにしました。
まずはフィージーに飛び、飛行場を乗り換え、30人乗りくらいのプロペラ機に乗ってツバルへ向かいます。

飛行機からみたツバルは本当に本当にきれいで、まさに環礁の上に人が住んでいる島でした。
下の写真は飛行機から撮影したツバルです。手前に白い線が見えるのは飛行場です。

(飛行機から見たツバル 2000年撮影)

ツバルに降り立つと驚くことばかりでした。
まず、飛行場に住民がいる!火曜日と木曜日にフライトがあるのですが、飛行機が飛ばない時間は開放されているのです。

そこでツバルの人たちは、サッカーやバレーをしています。
本当にゆったりと、開放的な暮らしをしているようでした。

飛行場を出ると子どもと子犬が遊んでいる。道路はところどころバンパーがあり、車の時速が20km以上出ないようになっています。
そもそも誰も急いでいないので早く走る必要もないのです。国の端から端まで車で10分くらいでしょうか。

食事はココナッツをタレにした魚を出されました。
自分たちで採った魚でココナッツもヤシに上って取っている。食費ゼロです。

二酸化炭素を排出するライフスタイルとは程遠い暮らしです。サンゴ礁でできた土壌で痩せていますし、塩分が含まれることもあり生産可能な農産物は限られているのです。

そんな彼らでも、いつもニコニコしていて、道を歩けば声をかけてくれる。

お正月にはツバルのダンスパーティが開かれ、明るいふんいきで犯罪もほとんどない。
警官もゴム草履を履いている。そんな暮らしをしているのです。

ツバルの空港ツバルの海岸
子供と犬浸水被害

拡大家族という考え方

生きる上では決して好条件とは言えない場所で暮らす彼らですが、実際に出会ってみると、貧しさを感じるどころか、とても生き生きとした表情をしています。目が輝いているのです。

私たちはお金がないことで苦しむことが多いですが、実際には自分よりもお金がある人を見て苦しんでいるような気がしました。

ツバルの人たちは自然と調和しながらゆったり生きており、笑顔が絶えませんでした。
冷蔵庫も持っていない人も多かったですが、自分たちで魚や野菜を採り、その日に食べる。

 

皆がそれほどお金がないところでは、劣等感も生まれようがないです。皆がそんな暮らしなので、それが当たり前なのでしょう。

さて、ツバルの人たちは、どうやってサンゴ礁でできた石だらけのやせた土地で農作物を作っています。
高波がいつ襲ってくるかわからないところで何千年も暮らすことができるのか。考えてみれば不思議ですよね。

話を聞いてみると、彼らには『Extended Family(拡大家族)』という考え方があり、この考え方が悪条件下でも生きる知恵となっていることがわかりました。
Extended Familyは、ツバル人を大きな家族と見なし、お互いを助け合う文化です。

例えば、ツバルはたくさんの島から成り立っており、小学校、中学校、高校をそれぞれの島に作ることが難しい状況にあります。Aの島には小学校、Bの島には中学校、Cの島には高校と島ごとに学校が分かれています。

 

小学校に通う子供はAの島の人が預かり、代わりにAの島の子どもが中学校に上がるときはBの島の人が預かる、というそんな文化を持っているのです。
Extended Familyの文化により、何かあったら誰かが助けてくれるという安心感が芽生えます。

なるほどな、と思いました。

個性主義と拡大家族

個性主義と拡大家族、どちらがよいかはわかりません。
日本を見ても、地方は助け合いの文化が根強いかもしれませんが、その分窮屈さを感じる方も多いでしょう。

 

僕自身、地方に住んで、内者には優しいが、外者(よそ者)を警戒する人がいて、その慣習に悩んだことがあり、単純に拡大家族の考え方が良いとは言えないとも思っています。

一長一短があり、何が正解かは条件によって異なります。しかしながら、ツバルの人たちにとっては、個性主義よりも拡大家族の考え方を選択したほうが生き延びる確率が高かったのでしょう。

 

実際、僕も友達や関係者の間でお金を回すように意識しています。
身近な人から野菜やお米を買ったり、車の修理や定期点検なども友人にしてもらっています。家も知り合いの民泊を使わせてもらっています。

これは社会がどうなろうとも信頼関係で成り立つものなので、とっても心の安定につながっています。

 

パンダくん
拡大家族って、優しい言葉だね。

タライ・ラーマくん
そうだね。
拡大家族の考え方を知ると、チャンスが来やすくなり人生が楽になるぞ。

地球温暖化問題の難しさ

ツバルは大きな問題を抱えています。祖国がなくなる危機に瀕しておりその原因は地球温暖化による海面上昇にあります。
1万人にも満たない小国で、1人あたりのGDPも2020年時点で4150ドルだそうです(訪れた20年前の一人当たりのGDPは2000ドル未満でした)。

彼ら自身が作り出した原因とは別のところで、祖国を捨てる決断をせざるを得ない人たちです。

 

その一方で先進国の援助があってこそ、国として成り立っている一面もあります。世界の複雑さを感じます。
複雑さがあるからこそ裁くことは難しい。難しいながらも今後の世界のあるべき姿を考えていく必要はありそうです。

 

ツバルのバエニウ元首相は次のような言葉を述べています。
『二酸化炭素を排出し続けている先進国は、温暖化の問題を経済やライフスタイルの問題として議論していますが、我々にとってはまさに、生きるか死ぬかの問題なのです。』

私たちにとって本当の豊かさとは何なのか。考えさせられる言葉です。

渋滞学を提唱した東大教授の西成先生がこんなことを言っていました。

全く関係ない言葉を2つ見つける。そうすると1つか2つ分をつなげると、無関係な2つの言葉は必ずつながるものだと。
例えば、「車」と「アンパン」にしてみましょう。ここで連想ゲームをしてみます。

「車を使って、小麦とあんを運び、その小麦でアンパンを作る」
どうでしょう?無関係な2つの言葉でもつながるのです。つまり、何かしら無関係なものでもつながるのです。

 

私たちは多かれ少なかれ、どこかで影響を及ぼしあっています。
僕にとっては関係ない。私にとっては関係ない。は実はそんなことはなくて、いろんなところでつながりあっているのです。

もちろん、私たちとツバルの人たちも影響を及ぼしあっていると言えるでしょう。

 

私たちの3大本能は、食欲、性欲、集団欲と言われます。
そのつながりを感じることこそ、私たちを幸せにしていると言えるのではないかと思います。

時には地球の裏側にも思いを馳せてみるのも悪くないでしょう。

 

  • 私たちはどこかでつながり影響を及ぼしあっている。地球の裏側に思いを馳せることも大切だ。
  • お互いに助け合った暮らしは私たちに安心感を与えてくれる。日常に取り入れれば、より平穏な暮らしができるだろう。
  • お金がないから幸せでないというよりも、人よりお金がないから幸せでないが正しいのではないか。ツバルの人は日本よりもお金はないが幸せに生きている。金持ちとの比較がなければ私たちも幸せになれそうだ。

 

ツバルの写真

ツバルで撮影した写真を集めてみました。写真の順番や選んだ理由はありません。気軽に楽しんでくださいね。

ツバルの食事です。ココナッツと魚がメインです。
自分で採ったものを調理しています。その他、オーストラリアなどの缶詰もよく売られていました。

 

ツバルの料理風景を撮影しました。ヤシの葉をいぶして魚を焼いています。

 

ツバルの切手です。きれいですよね~。お気に入りです。

ツバルのカレンダーです。海面の高さが載せられているのが特徴的でした。

 

日本の援助で作られたツバルの大病院 日本はツバルにもたくさん援助をしています。つながりが深いのですね。

 

PS
僕の尊敬する環境問題の研究者である石弘之先生がツバルの温暖化の影響について記事にしていました。その記事では温暖化と国土の消失との因果関係を証明するの際にはとても難しいようです。

温暖化により海水面は上がるのですが、珊瑚も成長し国土面積が広がるということもありうるようです。

ツバルの問題はどちらかというと、ゴミ問題にあるようです。島の人たちの所得も20年で倍以上も豊かになっている反面、いろいろな問題も出ているようですね。

 

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