【コラム】富士山麓のサバイバル修行


自然と共生した暮らしを求めて

以前、富士山麓で家族で自然との共生を求めた暮らしをしていたことがあります。
フィリピンで現地のサバイバル能力の高さに驚き、お金を介した生活ではなく、生きることに直結する生活を学びたいと思ったためです。

フィリピンのある島に家族で移住する計画を立てていましたが、最初から現地の人と同じような暮らしをするのはハードルが高く、まずは日本でサバイバルの修行をしようと考えました。

偶然にもパーマカルチャーという手法を取り入れた広大な敷地を持つ知人に頼んで、富士山が目前に見える5000坪の敷地を管理する代わりに、無料で住むことができるようになりました。

パーマカルチャーは、パーマネント・アグリカルチャー(持続可能な農業)という造語であり、持続可能なファッション(ライフスタイル)という意味も込められています。

コンテナを改良した家に住み、屋根に使わなくなった古い太陽光パネルを取り付けて電気を使えるようにし、当時2歳になる息子と妻の家族3人で暮らすことになりました。

場所はオウム真理教で世間を騒がせた(旧)上九一色村。
今は富士河口湖町に合併されていますが、移住者を極端に警戒する地域です。

なぜオウム真理教が上九一色村を拠点に選んだかというと、富士山が目前に見える景色が素晴らしく、富士山の強いエネルギーが感じられるためです。世間ともよい意味で隔離されたその場所は、瞑想するにはもってこいの場所なのです。

今まで横浜の高級住宅街に住んでいたのが、ここは大田舎です。
最寄りのスーパーまで車で45分、駅まで車で1時間という場所です。

そこでニワトリ50匹とヤギ、ヒツジを飼い、試行錯誤しながらの素人による農的暮らしをすることになりました。

野草を学ぶ

サバイバルの基本として、まずは野草を学ぶことにしました。

春になると、私たちの食費はグンッと減ります。野草が主食源となります。

野草のパワーはすさまじいものがあります。
カロリーの摂取量も減るため、みるみる脂肪が落とされていく。体調もエネルギー溢れたものとなるのです。

草食動物は少しの野草を食べて体を維持しています。
食事に多くの時間を取っていては肉食動物の餌食になってしまいます。

短時間で食べれて、栄養満点なのが野草です。
たんぽぽ100gで1日の摂取量目安はビタミンAで2倍、ビタミンKに至っては9倍といわれています。
その他、胃腸の働きも改善してくれます。

春になると、早朝に散歩を兼ねて野草を採るのが私の日課となりました。
ツクシを採り、カラスノエンドウを採り、タンポポ、ヨモギを採る。スギナは60%のブランデーにつけると、3週間後に超高濃度のビタミン剤となります。

 

子供が生まれ、自然の中で育てたいと思ったのは僕が33歳のときでした。仕事を辞め、富士山麓の広大な敷地に移住しましたが、利息で生活をしたわけでもありません。

当時はサバイバル的な生き方をして、生を実感したかったのです。

友人の伝手で校庭ほどある5000坪の土地に住まわせてもらい、家は、廃電車だったか廃トレーナーだったかを改造し、お金を書けずに生活をしていました。

妻との出会いはサバイバルキャンプだったので、幸いなことに彼女も抵抗感はなかったようです。

 

 自家製の火起こし道具です。
火起こし道具には、手もみ式と弓切り式の2つがありますが、手もみ式は僕の場合、手の皮がむけやすく弓切り式を作っていました。

意外と重宝しました。今でも家にあります。
トラックのトレーラー部分を改良した家で、太陽パネルを設置していました。

飢えの不安をクリアする

FIRE(経済的自立、早期リタイア:Financial Independence Retire Early)をするヒントは生活コストを下げることにあると言われます。
まさにその通りだと思います。

生活の基本が衣食住にあるとするならば、一番の問題は食でしょう。衣食住の「衣」は上下3000円もあれば揃います。「住」もうまくやれば、何とかなる場合が多いです。

空家は多いし、信頼関係が築ければ無料で良いから管理してほしい家主もいます。借り賃も破格です。

そうやって安く借りている友人がたくさんいます。周りをみても1-2万円の家賃で3ルームくらいついている家はあったし、住居費は実はそれほどかからないと思います。

その後、河口湖の湖畔で5万円で7DK、駐車場3台付の家に住みました。
部屋数が多くても実際に使っていた部屋は3つくらいでしたね。開かずの間が2つありました。

食の問題がクリアできれば恐怖心は大きく減ります。
仕事を辞めたら飢え死にするかもしれないと不安を抱く人も少なくありませんが、食草の学びは、私たちの死の恐怖を和らげてくれました。

最悪稼げなかったとしても死ぬことはないという実感を得られるだけで、前に進みやすくなります。

生活を大きく変えたいと願う人には、食草を学ぶと少しは死の恐怖を和らげることができます。

最悪何とかなるという実感は、社会の大きな変化の中で安らぎを与えてくれます。
ちょうど、海面が荒れ狂っていようと、海底近くの海は静まっているような感覚です。

ニワトリを無料で調達

ニワトリは無料で近隣から分けてもらいました。

ニワトリは経済動物で、卵の収益よりエサ代がかかるようになった時点で、そのニワトリは無用となるのです。
彼らは殺戮処分されるのですが、処分するにもお金がかかります。そんなニワトリを50匹ほど引き取りました。

彼らはトサカも傷つき、羽根も切れ、ところどころピンクの皮膚がむき出しになっています。
抗生物質を大量に食わされ、24時間電気がつけっぱなしの環境の下、卵だけを産み続けるエコノミックアニマルとして生きています。

そして生産性がコストを下回った時点で殺されてしまうのです。そんな運命を持つ哀れなニワトリたちを引き取り復活させるのです。

どうやって復活させるか?

引き取ったニワトリを2週間断食させ、放し飼いにします。
生き残ったニワトリは抗生物質も抜けて見事に生まれ変わるのです。

残念ながら断食中に3分の1のニワトリは力尽きて亡くなります。

しかし生き残った残りのニワトリは抗生物質が完全に体内から除去され、トサカもピンと立ち羽根も生まれ変わります。
再び卵をたくさん産むようになります。見事に復活するのです。

私たちはこの卵を復活タゴと呼んでいました。

広大な土地で放し飼いされ元気になったニワトリと共にすると、私たちは社会の病魔というか寂しさを想起させられることがあります。

満員電車に乗せられ、ノルマを果たすべく一生懸命働く私たち。
コスト以上の収益を見出せなくなれば捨てられてしまうのではないかと不安にかられ、24時間働けますかと呼応する栄養ドリンクに飛びつく。

そんな私たちは、24時間明かりのついた狭いかごでひたすら卵を産むために活かされ、エサ代が卵の収益を上回った時点で捨てられる。
そんなニワトリと重なってしまうのです。

そんな疲労困憊しているニワトリも、よい環境で育て直すと復活できる。
自分が生産性のない無益な人間だと思っていた私たちも、環境によっては復活することがいくらでもありえる、そんな確信が芽生えます。

原因は自分にある。全ては自己責任。
と叫ばれる時代に、必ずしも私たちだけが悪いわけではないのではないかと元気になったニワトリを見て思うようになりました。

今いる場所が私に合わないだけかもしれない。
新天地を求めることで、もしかするとニワトリが復活するが如く、私たちも復活することができるかもしれない。

そう考えることで、無価値感がやわらぐことがあります。
もしくは、自分に適した環境に移ることで、生き生きした自分が戻る場合もあるでしょう。

ニワトリは社会の縮図でもあり、希望にも感じました。

最後に

サバイバル生活は半年ほどで終わりました。
楽しいこともあれば、大変なこともありました。

貯金は一気に減りましたが、こういう経験もしてよかったなと思います。

自然はいろいろなことを教えてくれます。
ニワトリを見て、人生を重ね合わせることもあります。

自分の中にシンプルさを求める原点は、富士山麓の暮らしが原点にあるように思います。

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